手抜き主婦ヒトラー第45話
「我が家のつぶやき」

我輩は部屋である。名前はまだない。
ここの主人は自分のことをヒトラーと言っている。
我輩は2年とちょっと前、このヒトラーとその夫らしき人に買ってもらった。
世間では「マイホーム」というらしいが、このマンションの中では
小さい部屋で、我輩の両隣は広い部屋、いわゆる角部屋らしい。
狭いながらも、35年のローンを組んで買ってくれた。
35年も住んでくれるというので、喜んでいたが、最近は
憂鬱にもなってきた。35年、持つだろうか・・・
この夫婦、特にヒトラーは我輩をちっとも大事にしてくれない。
子供もいないのに、畳の部屋の障子はあちこち破けている。
これはヒトラーが洗濯物をとりこんだ後、ハンガーにつけたまま、
その辺に置きっぱなしで、歩くときにひっかけたりするからだ。
しかも汚れをふいてくれないので、真っ黒だ。
あと、ふすまにも傷がある。信じられない話し、ヒトラーは
この狭い部屋でゴルフのすぶりをしたのだ。
ゴツという渋い音がして、ふすまに黒い傷がついた。
ヒトラーは笑っていた。その傷を修復してくれることなく、
もう1年がすぎている。
もちろん壁紙も、フローリングの床も傷だらけ。
ヒトラーはそそっかしくて、いつも何かを壁にぶつけたり、ものを
落としたりしている。自分もよくドアにぶつかっている。
もっと気をつけてくれないと、主人もだけど、我輩も身が持ちそうにない。
我輩の友人、食器棚くんはもっとヒドイ目にあっている。
なんと、ダイニングのイスでガラスを割られたのだ。
新居祝いに買ったイタリア製の食器棚。
我輩は、いくらなんでもガラス屋を呼ぶだろうとタカをくくっていたが
ヒトラーは違った。なんとカーテンで隠したのである。
3枚ガラスの2枚だけ。みっともないなんて半端じゃない。
マイホームなんだから大切にした方が良いよ、と優しい友人は
アドバイスしてくれるのに、ヒトラーは聞き耳を持ってない。
我輩は最近くたびれてきた。
我輩は声を大にして言いたい!
35年どころか、10年持たないよ、この家!!