手抜き主婦ヒトラー 第28話

 手抜き主婦。人は私をこう呼ぶ。我が家にはブラックホールがあるらしい。さっき
まで使っていた鋏。財布から取り出した1万円札。昨日買ったばかりの120円切手。
鞄に入れたつもりの家の鍵…数え上げたらキリがない。振り返る。同じ道を歩いてみる。
自分の行動を思い出そうとする…それでも見つからないのだ。時間の無駄は分かって
いるが、思い出せないヒット曲の歌詞のように後味が悪い。家の鍵など、前のシーズンに
着たジャンバーのポケットから見つかることもある。しかも噛み終えたガムと一緒に。
ものを探す時間の多さは、自慢できるほど多いと自負している。大きな声では言えないが、
これでも昔は社長秘書だったのだ。社長の机の上にお盆を置いたまま、お盆を探し訪ねて
社員の仕事を邪魔して回ったこともある。社長もよくこんな人物を2年も雇ったものだ。
「はさみー」と呼ぶと「はーい」と返事をしてくれる、こんな商品がのどから手が出るほど欲しい。