手抜き主婦ヒトラー 第20話 

手抜き主婦。人は私をこう呼ぶ。なにせ虫が嫌いである。虫を見ただけで寿命が
縮まる気がする。家事は手抜きでも、虫を退治するためなら、大金も手間も惜しまない。
虫だって「あんたなんかお断り」と思っているだろうが、ヒトラー家に1歩でも足を
踏み入れた虫は拷問にあう。火あぶりの刑にしたはえ。水でおぼれさせた蛾。
掃除機で吸い取った青虫。小さなダニでさえ、何枚ものティッシュを使って殺す。
3ヶ月に一回のバルサン。「網戸に虫こない」スプレー。ありとあらゆる手段を使って
虫退治に時間とお金を費やしている。虫にだって5分の魂。それは百も承知。
とにかく、自分の視野からいなくなればいい。先日、ベランダにゴキブリがいた。
殺してもその後の処置に困る。箒でそーっとそーっと隣の家へ。「もう2度とこっちに
来ちゃだめよ」と言い聞かせてみた。隣の家でも同じことを考えていたら、ゴキブリの
たらいまわしになる。でもゴキブリは頭がいい。その後2度と現れなかった。